一方、ファイル共有ソフト自体の性質や使われ方について調査し、同種事件の裁判例を調べるなどした結果、本件事案で無罪を争うことが極めて困難であり、無罪を主張すれば、いたずらに裁判を長引かせ、その結果、身柄拘束も長期間に及ぶと判断しました。そのため、Aさんの行為が、Aさんの言うとおり、最初から意図的に第三者に配信することを目的としてやったのではないとしても、結果的に児童ポルノを不特定多数のインターネット利用者に配信している以上、犯罪の成立を否定することは困難であると、Aさんを説得しました。
最終的には、Aさんも自己の行為が犯罪であることを認め、認めたことを前提として、検察官に対し、Aさんが認識不足からこのようなことを行なってしまったことや、真面目に働いていた青年であったことを述べた上、略式罰金の処分にして欲しいとの「上申書」を提出しました。略式罰金とは、正式な裁判を受けることなく、罰金を払うことにより釈放される、簡易特別な手続です。
本件のような場合、本人が明確な意識のないままに、簡単な操作をすることで犯罪を犯してしまうという、インターネット犯罪の問題がありました。そのため、本人にも罪の自覚がなく、むしろ不当に逮捕されたという気持ちが強いため、本人に自分の行為の犯罪性を理解させることが1つの課題でした。
裁判例等を調査し、同種事件でどのような判決が出ているのかを確認しないまま、Aさんの言うことのみを前提として無罪を主張することは、かえってAさんに取返しのつかない不利益を与える可能性がありました。
そのような意味でも、裁判例を踏まえた、弁護人の的確な判断による対応が必要な事案でした。