イギリス国籍のAさんは、成田空港に到着した際、自分のスーツケースが到着していなかったため、航空会社に探すように頼み、滞在するホテルの連絡先を教えて待機していました。翌日、スーツケースが見つかったとのことで連絡が入り、荷物検査の許可を求めるFAXがホテルに届いたため、承諾の書面を返送しました。さらに翌日、捜査員が突然ホテルに来て、空港への同行を求められました。Aさんの名前のタグのついたスーツケースを検査され、スーツケースの底を捜査員がナイフで切ったところ、大麻が出てきたため、Aさんはその場で逮捕されました。
Aさんの言い分は、自分の名前の書かれたタグがついているものの、そのスーツケースは自分の物ではなく、中身の荷物や大麻も自分の物ではないし、事前に航空会社に伝えたスーツケースの色や形とも違う、中に入っていた洋服は自分のサイズとは異なっている、というものでした。
警察官はAさんの言い分をウソと決めつけ、執拗な取調を行なっているとのことでした。Aさんは全く知らない日本の地において、家族とも連絡が取れないまま身柄を拘束され、追い詰められ、嘘でも警察官の言うとおりにした方がいいのではないかと考えてしまう心理状態に陥っていました。さらに警察官は、パソコンを閉じた上、「記録は一切取らないから、真実を言いなさい。そうすれば、すぐにでも釈放します」等と、欺瞞的な主張を使っての取調を行なっていました。
弁護人は、精神的に参っているAさんに、連日のように面会し、「どんなに苦しくても、嘘の自白をしてしまえば、調書が取られ、それが証拠となって有罪になる」ということを再三説明し、励まし続けました。さらに、勾留理由開示手続も行いました。
本件は、警察官等から執拗に自白を強要されていた事件です。さらに、「正直に話せば釈放してやる」などと嘘までついて自白させようとしていました。
日本の刑事手続など全く知識のないAさんは、弁護人からのアドバイスがなければ嘘の自白をしていた可能性も十分ありました。そのような場合、裁判で否認したとしても、捜査段階での自白を証拠として有罪になってしまう場合が極めて多く、一歩間違えれば、異国で長期間の刑を受けなければならないところでした。